「PDCAを回せ!」「やりきれ!」「メンタル強くしろ!」サムライインキュベートで日本のインキュベーションをメインで担当している矢澤さんに、現在とこれからのサムライについてインタビューしてきました。

以前、「起業したてのシードスタートアップに投資する日本のVC(シードアクセラレーター/インキュベーター)さんをまとめました」の記事で書かせていただいたサムライインキュベートさん。代表の榊原さんはイスラエルにスタートアップ投資先の開拓に行くなど、日本の中でも独特な動きが目立つインキュベーターさんです。
一方、「代表の榊原さんはイスラエルに注力しているけど、日本での投資は誰が担当するの?日本の投資は今後どうなるの?」と疑問に思ったので、サムライさんに連絡させて頂いてインタビューさせていただきました。日本の投資を担当している矢澤さんにお時間頂き、大変詳細にお答え頂きました。それではどうぞ!

========= 以下、インタビュー =========

—サムライさんはスタートアップ界では知らない人がいないんじゃないかと思うくらいとても有名なのですが読者の方にはこれからスタートアップ、という方もいらっしゃるので、簡単にサムライインキュベートさんのご紹介と、数あるVCさんの中でのサムライさんの立ち位置をお伺いできればと思っております。

矢澤:サムライインキュベートは今Go Action!Go Change!「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」を大きなミッションとして掲げて日本・イスラエルで活動しております。

ここ3年でアジアNo1.インキュベーターという目標をおいていまして、他のベンチャーキャピタルさんと違うところはやはりシード特化、たくさんの投資社数とそのコミュニティ、そしてSSIなどを通した包括的なサポートを行っているところが大きな特徴となります。

たとえばY-combinator等の他のシード特化のVCさんですと、バッチ制で短期的なサポートが多かったりコワーキングオフィスをもっていなかったり、だと思いますが、サムライは投資してから最後のイグジットまでしっかり関係を持ち支援しつづけるというところが大きな違いかなと。

特にシード段階のスタートアップは知識や経験、ネットワークやオフィスがないので、そういったところのいろいろな困りごとをサムライの中で全部一括してサポートしています。

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まず活動場所がなければサムライのここのオフィス”Samurai Startup Island”(SSI)を提供しており、登記も出来ます。(※)他にもSSIでは年に200回以上イベントをやっていまして、そこでたとえばマーケティング やファイナンス、UI/UX人材関連のコンテンツなどスタートアップの方がたくさん学べる環境を作っています。
イベントをたくさん行うことで「知識」面をサポートしているに加え、ネットワークも出来ていきますので、スタートアップだけじゃない専門家や大企業・場合によっては行政まで繋がることが出来ます。

その包括的なサポートが大きな違い、強みになってくるかなと思っていますし、最近イスラエルに進出しましたので、そこがやはり他社VCさんとは違うところです。

最近だと結構市況がよくなってきているので、いろいろなシード特化のVCさんもどんどん投資していっていると思うんですが、数が増えると当然1社あたりのサポートに割ける時間は減るのでハンズオフ(投資したあとに積極的に支援を行わないこと)になってしまっているところも多いのではないかと思います。しかしサムライではしっかりシステム化、いろんなツールを使って包括的なサポートができる体制づくりをしっかり取り組んでいる状況にあります。

サムライの投資先のことをサムライ軍団と呼んでいるのですが、その中でもすごくコミュニティができていて、サムライはわりと横のつながりを意識していますので、定期的にサムライ軍団総会という半期に1回、サムライの投資先のCEO、CTOを全部集めてやるような大きなイベントをしています。そこでも横のつながりがどんどん生まれていったりしています。

たとえばサムライのメンバーでサポートできないところもサポートできたり。あとはサムライ軍団のFacebookグループみたいなものあるので、そういったところでみなさんやりとりをしながら、コミュニケーションをつくれるような環境づくりができている状況です。何か困ったことがあったらここに投げればサムライ軍団のCEOが回答してくれるよ、という形で促したり。

—素晴らしい。ちなみに、これは公開できればでいいのですが、御社はかなり数多く投資されているイメージがあるのですが、投資数でいうと年間でどのくらいされているのでしょうか。

矢澤:年によってもバラバラでもあるのですが、2013年まではかなり投資はしてきたと思っています。2013年の時点で月に2〜3社のペースでしょうか。2014年になってから少しサポート体制の見直しと仕組みづくりのところに時間をかけたという背景があり、2014年に入ってからですと月1〜2社ペースくらいとなっています。

体制づくりに力を入れていた2014年

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—2014年は体制づくりをされていたと。具体的にはどういった仕組み作りをされていたんでしょうか?

矢澤:たとえばサムライはさまざまな起業家から相談をいただくのですが、「このサービスいいな!」と思うとすぐ投資するという属人的に投資をしてきた部分が少なからずありました。そこの仕組みをもう少ししっかりとしていき、本当にきちんと起業をしたいサムライマインドをもった人に投資をするにはどうしたらいいか、そこをしっかりと固めるということをやってきました。

あとは社内の体制づくりとして、いろいろなツールの整備やサムライのコミュニティに入ったら使えるさまざまな情報が集まっているポータルサイトやマニュアルに注力してきました。そこをしっかりとすることにはリソースがかかってしまい投資する社数はもちろんぐっと減ったのですが、そこから次のステージにいく会社の割合は各段に上がりました

—次の投資につながる確率も御社の投資先の場合は多いのかなという印象があったのですが、そこはどのくらい変わりましたか?投資についてはトラッキングスパンが長いので難しいところもあると思いますが。

1号ファンドに関してはExitをしていますので、2011年に立ち上げた2号ファンドでいくとだいたい70%くらいが増資しているかなと。同じく2011年に立ち上げた3号も同様なパーセンテージに近づいており、更にバリューアップが必要なところです。

私はもともとシリコンバレーにいたのですが、日本に戻ってきてサムライに参画させていただいて、そこでバリューアップに注力することになりまして。そこから投資した会社に関しての増資のパーセンテージはかなり高いです!

—これは矢澤さんの腕力で。

矢澤:もちろん私も頑張らせていただいておりますが、そこはもう本当に仕組みを意識していまして。VCさんですとわりと個人の力みたいなところがあると思うのです。もちろん個人として、我々もより成長していきながらも、チームとしてもっとやっていこうというところがありますので、そこでサムライのメンバーそれぞれで担当が違っていてそこで個人の強みを活かして連携をしながらみんなでサポートしていこうということやっています。

役割が見事に割れている少数精鋭チーム

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—さまざまなメンバーの方がいてということでしたが、今のサムライインキュベートさんの中でのメンバーの方の役割をざっくりと教えていただいてもよろしいですか。

矢澤:はい、サムライインキュベートは代表の榊原健太郎が立ち上げまして、今榊原はイスラエルで投資活動をしています。また、COOを務める池上隼人もサムライインキュベートの立ち上げメンバーです。サムライはかなり攻めなので、守りを固めるバックオフィス、オペレーションのところをしっかりとやっています。池上がいて成り立っているところもあるのかなと思っています。

また私と同期で入った玉木諒がファイナンスを専門としています。ファイナンスが強い、というか、会計士でもありますので、サムライインキュベートの財務や会計周りほか、ファンド周りや、支援先の増資やExitの部分も担当しております。

ファンドのところ言うと、もともと安藤庄平が、オペレーションをやっていましたが、今安藤もイスラエルにいます。今、イスラエルブランチを立ち上げたばかりなので、そちらを軌道にのせるべくまずオペレーションを固めなければいけないので。

そして、私が今榊原とインキュベーションを担当していまして、出資先の選定の部分から実際に投資させていただいたあとのバリューアップの部分で、一緒に事業計画をつくったり事業や収益の数値計画を立てたりしています。例えば、3年後4年後に営業利益どれくらいいくのかとか、どういったExitをするのかというのを一緒に策定してあげて、そこからブレイクダウンして、結局今何をすべきかの施策に落とす。そこでKPIとかを一緒に設定していく感じですね。実際に週次で追っていって改善していくということをメインでお手伝いしております。もちろんアイディアやビジネスモデルを作りなおすこともあり、その場合にはブレストからお付き合いします。

ー矢澤さんの動き方としてはスタートアップとガッツリ一緒にやっていく感じなんですね。

矢澤:はい、ガッツリです(笑)。インキュベーションに関しては私と榊原でメインでやっていましたが、最近榊原はイスラエルに注力しているので、日本チームのファンドまわりは私と玉木が共にやっています。私もシリコンバレーにいたときにはファンドレイズなどもやっていましたが、やはりファイナンスの部分は玉木のほうが専門ですので、Exitの話や増資になったりすると玉木が入ったりすることもあります。


—なるほど、今は実質、榊原さんや安藤さんがイスラエルにいて日本にいないとなると、投資に関する多くの部分は 玉木さんと矢澤さんが多くの部分やっているということになりますよね。

矢澤:はい、ほぼやっています。あとはエンジニアとして阿部愛が、サムライのWEBや、イスラエルのSamurai House in Israel(SHI)のシステム周りをすべて阿部がやっています。

その他、両角将太がもともとSSIをメインでやっていたのですが、今SSIの中でもとくに他社大企業さんとのアライアンスにとても注力していまして。たとえばSSIの運用も、入居費だけではなくスポンサーさんが実際に入っていただいているのです。たとえばエレベーター前に何気なくロゴがあったり、あとはRAIZINというエナジードリンクからも協賛いただいたりしていて、そういった協賛まわりを担当していたり。

最近ですと、IBMさんと一緒にプログラムをやったり、トヨタさんとハッカソンをやったり、さまざまな大企業と一緒にコラボをしながらやってきていまして。そういった大企業ネットワークなどのアライアンスまわりを彼がやっています。そして、弊社の寺久保拓摩がSSIのアライアンス以外を全部担当していまして、入居者の管理から、月に15回以上ものイベントの企画から運営まで全てやっています。

実際に両角がとってきたアライアンス関連のイベントも、中でいろいろと回したりするのは寺久保だったりします。あとはインターンとしてもう1名おりまして、彼がイベントのサポートのような形でやっています。やはりイベントって集客から企画運営まで大変なので、そういったところのサポートをやっています。今全員でインターンも含めると9名なのですが、日本にいるのはインターン含めて7名です。

—7名!めちゃくちゃ少人数なんですね!よく回りますね。。。

矢澤:少人数で、インキュベーション、ファンド、イスラエル、SSI、大企業とのアライアンス、年に2回の1000人規模のイベントSVS等の大量のオペレーションをみんなで回していますね。あとは最近5号ファンドもレイズしましたので、さらにボリューミーな感じです。(笑) 手前味噌で申し訳ないのですが、私から見てもメンバーのスキルはみなさんすごいなと思っています。若手でもしっかり回しているというのがありますので。個々がそれぞれ強みなところはあるのですが、この人数で回すというのはそうとう大変だと思うので。やはりチームで連携とりながらですね。

ーこの体制で80社の継続サポートはすごいです。

矢澤:はい、なので見事に分担が分かれている感じです。インキュベーションも、メンタリングは私がやっていますが、玉木が増資のために入ったり、大企業連携で両角に手伝ってもらったりイベントで寺久保とやってもらったりしています。

体制投資以外にも様々なツールでスタートアップをサポート

ー日本だと矢澤さんがかなりのキャパをもっているということだと思います。ちなみに、今さまざまなサポートをされているということで、SSI、SSIでのイベント、Facebookグループやポータルサイトもありますということで、他に何かツールはこのもの以外にあったりしますでしょうか?

矢澤:他にはサムライ軍団割引をつくっていまして、そこは私がかなり開拓していっているのですが、サムライから投資を受けたらいろいろなところが安くなりますよ、ということで。

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ー福利厚生的な。

矢澤:はい、そうです。たとえば、だいたいみなさん会計まわりが困ったりするので、会計事務所さんや特許事務所さん。あとはスタートアップにとってサーバーの負担などを軽くするため、マイクロソフトさんや、さくらインターネットさんやAmazon Web Service。そしてインフラだけでなく、UIUXの部分を半額でテストマーケできますよ、とか。あとはメディアとの連携もあったりします。マネーフォワードさんとかもサムライ軍団向けの割引をつくってもらっているので、そういうのも1つのツールとして考えています。この辺が一番大きなところですかね。

ー先ほど、体制づくりをして投資の基準を上げたというところがありましたが、どういった人たちに投資したいというのを言葉にするとどういう人になるでしょうか?

矢澤:一番にサムライマインドをもっていることが本当に大事になります。ホームページにも記載していますが、一番最初にトップに出てくるような「義」とか「礼」とか「勇」とか、そういった基本的な良いマインドをもっている人にきちんと投資していきたいなと思っています。そして、意外とそこから紐づく一般的なことができるかどうかというのは当然のベースとなります。例えば返信が早いとか。そういったところを全体的に見てはいます。あとは基本的なところに加えてPDCAが早い人であったり。

サムライ軍団今80社以上、そろそろ100社くらいになってきますがそういったCEOを見ているとやはりPDCAの早さだったり、返信速度が早かったり、やり切ってる感だったり、資料をきちんとつくっているかだったり、本当に小さいところで申し訳ないのですがそういったところを総合して、サムライマインドがしっかりあるかどうかというところを見て選定しています。

ーこれは今おっしゃっていたのは、マインドというのはある意味きちんとした人であるというところプラス、一般的なビジネススキルの話もそうですし、PDCAの回し方というのはおそらく事業をどう改善していったり検証をできるのかという能力がすでにある方ということですよね。

矢澤:そうです。傾向としては若い人だと勢いはあってすごくスピードは速いのですが資料をつくるのが苦手だったりと基本的ビジネススキルが弱い人が多い。一方で逆に上の方ですとスキルも経験もばっちりあるけれどもスピードが遅くなりがち。そのあたりを勘案しながら全体として判断して、この人はしっかりやっていける人なのかということを拝見させて頂いてます。

その他では、やはり熱い想いをもって誰かの課題を解決したいのかどうか、サービスづくりに邁進出来る人かどうか。最初にもってきた事業アイデアより、どうしても話している中で課題解決のコアな軸はこちらではないか、とかアイデア自体は変わりやすいのでそれにどう対応していけるかなどを力入れて見ています。ただ起業したい、じゃなくてその熱い想いがあれば課題解決に一番ベストなサービスを作れますし折れにくい。

ただの学歴やスキル・バックグラウンドだけではなく、そこの人の部分というか。言ってしまうと、一応パーソナル面では、これまでのうまくいっている人だったりうまくいかない人だったりを参考にしてある程度体系化していまして、それに照らし合わせてやっています。

ー過去の似た方とくらべて、じゃあこの人はいけそうのかどうかというようなところということでしょうか?

矢澤:そうです。ある程度、こういった人なら大丈夫などという基準を設けて、そこに対して照らし合わせてやっています。

ーすごく体系的にされていますね。

矢澤:実はけっこう仕組みを作っています。ただそこをよりブラッシュアップしていく必要があるので。正直に言ってしまうとその仕組みを導入したことによってかなり確率がよくなりました。もちろんそれは100%ではないのと、それをもとに今度はどうサポートしていくべきなのかを注力しています。

たとえばこの人めちゃくちゃいいよねとなっても、ここが足りないよね、というところは絶対にあると思うので、逆にそれをどうサポートしていくのかというところにつなげていく。わりと他のVCさんですと事業の方向やプロダクトをどう改善していくかというところに注力を置きがちですし、もちろんそれでいいとは思うのですが、我々はより、ここが苦手だよねというところに対してもしっかりとサポートができるように、ファンドチームの中で共有をしながら適切にサポートをしていけるようなところに注力をおいています。そういった意味で仕組みづくりです。

ー過去のデータをサポートにどう生かしていくかを個人によらずに体系的にやっていけるとさらに大きくなったときにも対応していけるという。

矢澤:はい、いい意味でビジネスだけではないところをきちんとサポートしていけるように体制をつくっています。特ににシードだと、数が多くなりますので、ハンズオフと感じられないようなサポート体制構築が大きな目標です。海外でも投資社数だけ増えてハンズオフになってしまっているところがわりと多いと思いますので。2014年はここにも注力していたので、そこまで表にプレスリリースがっつり打ったりはしていなかったのですが、2015年はもっとやっていこうかなと。

ー2014年はある意味それを検証されていて、それが数字として出たので、これから大きくしていってもそれがワークするだろうということですね。

矢澤:はい、たたき台がしっかりとできたので。

ーあとは拡大フェーズというこちですね。素晴らしいですね。

矢澤:ただそれをあまり外に打ち出すことによって、サムライにご応募頂いて出資を受けれなかった方に、自分人間駄目だというふうに思ってほしくないなと思っています。もちろん人柄だけを見るのではなく、ちゃんとプロダクトも見ています。イノベイティブなアイディアに投資していくのがサムライなので。あとはエンジニアがいることも条件なので、この人に投資したいけどエンジニアを入れてから、という判断もあります。エンジニアを引き込めるかもCEOの質ですし、今回だめでもどう改善するのか・どう変わっていけるのかを見ていっています。なので5回くらいお断りした後に出資した人もいます。難しいところですが、改善のためのポイントとしてお伝えするようにしています。

ー人によって判断が変わるところに明確な判断軸があるので、汎用的にできるような体制になってきていますということですよね。

矢澤:やはり人のマインドの部分に関してはサムライも皆で意識しているところなので自分たちも全然できていない・完璧じゃないという意識を常に念頭におきながら動いていますし皆さんにもお話ししています。

ーわかりました。ありがとうございます。これから実際に2013年に2~30社くらい投資されていたという状況に戻される感じになっていくのですか?

矢澤:そうですね。数も追っていきます。ただ数だけではないところにも注力していく予定です。数はおそらくもう必然的についてくるかなというところかなと。

ーちなみに、今のファンドのファンドサイズってどれくらいなんでしょうか?

矢澤:ちょうど5号ファンドを組成しました。まだファーストクローズですが大体トータルで20億くらいまでいくかなとは思っています。最初10億でクローズ予定でしたが、すぐに集まってしまいそうなので20億くらいでクローズ予定です。ただ逆に集まりすぎると使えなくなってしまうので。

ー日本だと1つの投資金額は今いくらですか?

矢澤:1社につき450万くらいです。バリュエーション3000万で15%という感じです。

ー感覚的には450万で年30社くらいだと全然いかないですよね。イスラエルはマーケットが違うと思うので投資額なども違う感じですか?

矢澤:はい。イスラエルと日本で半々で投資していく予定ですが、イスラエルはポストバリュエーション1億で1000万円の出資です。なので10%の株式保有という感じです。やはりイスラエルは全体的にバリュエーションが高くExit額も大きいので全体的に規模が違いますね。

ーレベル感も違いますよね。会社によってはすごく最初から大きいという。あとは市況も違うというところもありますよね。ざっくり日本で10億、イスラエルで10億みたいなかんじですか?そうすると理論上、200社くらい日本で投資することになりますよね。

矢澤:そうですね。けっこうできてしまいますね。

ー組み入れは何年くらいで行う予定でしょうか?

矢澤:7年で組み入れようと思っています。ファンドの満期自体は10年なので。7年までだいたい組み入れていって、3年で回収していく感じです。

ーサムライさんとして5号がありますというお話とかあると思うのですが。その前に、榊原さんはなぜイスラエルに行かれたのですか?

矢澤:イスラエルはテクノロジーのレベルが世界的に見て圧倒的に高いからです。実際にNASDAQの上場社数を見ると、米国に続いて中国と競っているほど世界的なベンチャーを輩出しています。また、国民一人当たりのベンチャーキャピタルの投資額、研究者数、M&A数、R&D施設数、ノーベル賞受賞率が世界で圧倒的No1です。そして、そういった事実がありながらも、日本からほとんど誰も起業家や大企業が進出してないといったこともイスラエルに展開したと理由の一つです。

あとはやはりみなイスラエルを危ない国と認識されている方も多いかと思いますが、実際全然そんなことはありません。こんなにハイテクなのに、みなさん注目されておらずシリコンバレーを追っていますが、シリコンバレーではなくて今イスラエルでしょ!というところで。もっと日本とイスラエルの架け橋をつくって、よりイスラエルの人たちに日本を知ってもらって、日本の人たちにもイスラエルのことを知ってもらうというインバウンド、アウトバウンドを通して、二カ国コラボしてもっと良いものを一緒につくっていければいいかなと思っています。

ーそういうノウハウをイスラエルから仕入れたいというところがあると。

矢澤:はい。あとは、アメリカの企業だとわりとイスラエルにR&Dセンターを設けている会社がたくさんあるのですが、日本だと数社と全然少ないです。イスラエル全体でのベンチャーキャピタルの投資額なども大きくて、年間でVC投資額4000億円くらいにのぼるという実績があるのでそういったところでイスラエルに進出しました。

ー戦略的にイスラエルを選んだということですね。サムライさんとしては、日本は継続してとくに矢澤さんのほうで機動してやられつつも、イスラエルのほうのノウハウも学びつつ、いいスタートアップにどんどん投資していくと。イスラエルに関しても当然規模として広げられるんですか?

矢澤:イスラエルでサムライナイトを毎週やっています。そこでだいたい毎週50人くらい集まるような規模にはなってきています。また、どんどん投資してスピードをもって投資社数を増やしていくことによって、イスラエルの中でもナンバーワンになっていくという意味では規模は大きくしていきますね。ちなみにイスラエルのスタートアップは本当におもしろくて、イスラエルのほうが早く投資しきってしまいそうな感じですね。技術がすごい、「おおっ」というものがあります。あとはやはり起業家の方もみなさんスキルが高くて、大体相談にくる時点でもう2回目、3回目の起業ということが多いです。起業が当たり前な感じですね。まさに、石を投げれば起業家に当たるというような感じです。

ーイスラエルの話はまた別途お聞きたいですけれども、日本の話に戻りましょう。今後スタートアップする人に対してなのですが、いろいろと変わってきていると思うのですが、今後どういうふうに投資家と付き合うべきかという話をいただけますでしょうか?

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矢澤:一言で言ってしまえば、仲良くなることですかね。本当にそれに尽きるかなと思っていまして。いろいろな形で仲良くなりながら、うざがられない程度にしつこく粘り強くいろいろな人と話して、アイディアやプロトタイプを洗練させていきながら、継続してコミュニケーションをとると、投資家やVCは情ももちろんわきますし、サポートしてあげようという気持ちにもなるのかなと。なので最初の段階ですごく仲良くなっておくとか知っておくというのはすごくいいことなのかなと。

あと投資家から「これやったほうがいいよ」みたいなところに対して、きちんと答えていくということもすごく重要なので、そこをきっちりとやれるか、というところでしょうか。投資家もこの人が本当に成長できる人なのかというのを、合わせて見ていると思います。たとえば今会ってそのときに何もなかったとしても、次に会うときにきちんと成長できているのか、とかを見せていくというところが一番大事かなと。

特にシードやアーリーで投資しているVCさんや投資家さんは目の前のキャッシュや売上額に対して投資しているのでなく、そのサービスの可能やスケール性等に投資をしていくと思いますので、そこのところをきちんと最初の段階で仲良くなっておきながら培っていくところが重要なのかなと思っています。

ーちなみに仲良くなり方って、イメージがわかないかもしれないのですが、それってどういう形が例としてあると思いますか?

矢澤:まずはいろいろなイベントに参加をするのがいいかなと思っています。ビジコンとかですかね。サムライでも一般向けにたくさんやっていますし。意外に、1人篭って、プロダクトをつくって起業準備、みたいな人もいるのですが、そうじゃなくて、どんどん外にでて、幅広くいろいろな人とディスカッションをしてみたり、仲間を増やしていったり。

そういうことをやっているとどこかで接点が絶対に出てくると思います。投資家の存在を知らない人もいますので、それを知る機会にもなりますし。そこで出会ってからは、積極的なコミュニケーションを重ねていくことですかね。アドバイスもらったら真摯に検討して、否定されたら「VCや投資家はサービスの良さがわかってない」じゃなくて、どう改善出来るかを考えて。想いは伝わりますし、真剣であればあるほど良いコミュニケーションがとれる。それも本当にPDCAではないですが、実行して学ぶというところを素早くやっていけるところですかね。

あとは私がパーソナル面の基準をつくっている中で、経済産業省所轄の独立行政法人で、成功する起業家を研究してる方がいらっしゃいまして、その方にお話を伺った際に、どういう起業家がうまくいくのかというと「VCとコミュニケーションをたくさんとっている人というのが成功する」らしいのです。いかにVCとディスカッションをしてVCが考えていることを吸収できるか。ネットワークだけではなく、VCと似たような思考回路になれるか、そして、VCの視点をいかに自分の血肉としてできるかというところが成功する起業家の要素に関わってくるのではないかという話がありましたので。そういった意味でも、いろいろなイベントに参加して、本当にアプローチしまくるというところですかね。

シードはやはり量です。人によってはプロダクトがこれだといけてないからまだちょっと見せられません、みたいな人も多いですが、まずは世の中に出して周囲の反応を見たり、投資家から意見を聞いたり。量をこなして質に転化していくという量の部分ですね。それを早く吸収して、失敗から着実に学ぶ。いろいろな人と会って、サービスの伝え方や表現の仕方を学んでいくと機微もわかってくる。その結果として、投資家との良い付き合い方ができるのかなと思います。

PDCA力の磨き方

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ー先ほどのPDCAを回すのが早いとか、そういうのは何かを経験しないとおそらくできないと思うのですが、どういうふうにその力を培っていけばいいかってあったりしますでしょうか?

矢澤:本当に基本的なところなのですが、PDCAきちんと分解して着実にやることですね。プランもきちんと戦略を立てて、KPI設計して、それを実際にやってみて、どうだったのかを検証する、きちんと分解して自分の中で咀嚼できる形にする。できれば言語化ですね。成功への近道はたくさん失敗してそこからたくさん学ぶことなので「言語化」することを習慣化してそこから学ぶことでPDCAを早く回せるようになってくるのかな、と思います。

結構、「言語化」は大きなキーワードで、サムライの支援先でも調達の際にピッチの練習をしますが最初はやはり皆下手です。きれいに言いたいことがクリスタライズされていないとか、うまく刺さるような形の言葉になっていない。思いがあってモノもあって伝わる何かがあるにも関わらず、そこがきちんときれいにまとまっていない。それを練習する、つまり言語化することで洗練されていきます。

それはやはり練習なので。それは私も本当にまだまだですが、みなさん言語化をもっと意識していくとPDCAを早く着実に回すのにいいかなと思います。資料をきっちりとつくることなどもそこに関連してきます。資料をつくる、つまり人にわかりやすいような言葉にしていく。それはサムライの投資先の傾向でもありますが、ある程度社会人経験を積んでいる人はそこを前職を通してきっちりとやっているので、わりとうまくできているのですが、学生だとやはりそういう経験を踏んでないので、ぼんやりとしたイメージでこれがあったらいいのにみたいなところで終わってしまっているのかな、と。なので、言語化を意識していけば、PDCAを早く回すということに大きくつながっていくのかなと思います。

たとえば誰かキーマンと会った時も、最初に何を話せばいいのか、仮説立てて準備したり。もちろんすごく頭のいい人はいいと思いますが、みながみなそういうわけではないですし、サムライは別に頭がよくなくてもどんなバックグラウンドがあっても成功するという人をつくりたいので、そのためには早めに仮説を立てて、それをやってみてどうだったのかということをきちんと考えて言語化して失敗から学べる人がいいのかなと。

ーPDCA以外で必要な力というのはどんなものがあるでしょうか?

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矢澤:やり切る力ですね。PDCAとやり切る力、そこだけは本当に必要です。サービスをつくるときもそうなのですが、みなさんKPI設計して実行段階になったときに、なかなかそこでうまく数値がついてこなかったりすると、やりきって何が駄目だったのかを考える前に、そもそも方向性が間違っていたのではないかという感じになって、方向性やKPIを変えてしまったり、何か理由をつけてそこをやり切らないのです。

ある程度もう少し見ないとわからないよというところを本当にやらないのです。やはり起業家はアイディアを思いつくのが得意なので、ユーザー数値が上がらないと、こちらのほうがおもしろいのではないか、となりがちなのです。もちろんフットワーク軽く切り替えていくことは大事ですが、変えるべきところとそうでないところがあり、そこは特性を見ながら、「いやいや、その気持ちはわかるですが、ちょっとブレてますよね」と、何度も修正したりしますね。やり切るというところをすごく大事にしています。

ー最後に、スタートアップを今まさに立ち上げようとしている人にメッセージをお願いします。

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矢澤:とにかく言語化を意識してほしいなと。言語化も別に紙に書かなくても、榊原みたいにめちゃくちゃ話しまくったり、人前に出まくっていることことも1つの言語化ですし、そういった形で何かしらの形にするということですね。できれば文字や資料に落としたほうがいいのですが。資料や文字に落としつつどんどんそれを伝えていくということをやってほしい。しゃべりまくる。

文字や資料に綺麗に落とせないときはだいたい何かつまっていたりして、そこは話していかないとわからないところなので、話して、思いついたことで言語化をして。話すというのは右脳を使うのかな、と。言語化する、文字に落とすのは左脳的なのでどうしてもそこでスタックしてしまうのですが、そこを直感を働かせて右脳にもっていくために話しまくって、閃いて、それが言語化できたらそれも落としていくというような。

そこは榊原はすごいなとわたしも思っています。

ー榊原さんほどPDCAの回す量が多い方もなかなかいないと思います。

矢澤:彼はPDCAの鬼です。ただ、話してばかりで資料をつくらないかというとそういうわけでは全然なくて、きっちりと資料にも落とし込んでいるのです。忙しい中でも彼は誰よりもきっちりそのへんのところまでやりきります。そして、そこの振り返りのところもきちんとやっています。チェックの部分ですね。

余談ですが、サムライでは毎月末に締め会というチームMTGをやっていて、そこで実際に今月のKPIがどうだったのか、来月の数値目標などをチームみんなで共有します。みんなの前で話すことで、気が引き締まりますし、振り返ることができる。締め会の最後に一番コアなサムライ魂をみんなで再認識したり。Go Action!Go Change!は絶対に話しますし。そういう計画だてて、実行して、毎月振り返る。泥臭いところはしっかりとサムライでも意識しながらやっています

最後に伝えたいところであればメンタルですね。起業家にとってメンタルの強さがすごく重要です。やはり投資選定のときでも、メンタルが弱いとその人の成長を妨げてしまうので、そういう人は投資するにはまだ早いかなという判断をしていたりします。そこのところのメンタルの強さも、PDCAプラスで見ています。

いろいろなところで気負いすぎてしまうとやはりうまくいかないですし、だからといって考えなしだと問題なので、きちんと考えつつもポジティブにメンタルが強くないときびしいかなと。

そこはどうしても、自分でしか管理できないので。思うようにいかないことが多いですが、そこのバランスも起業家の質なのかなと思っています。ある意味、起業すると自分自身のことも見えてくると思うので、自分の心のケアをしながら折れずに諦めずへこたれず頑張って今後の日本を牽引していって欲しいです。

ーありがとうございました!

======== 以上、インタビュー =========

まとめ

昨年はあまり日本のスタートアップに投資をしていない印象があったサムライさんですが、イスラエルに集中して日本は投資しないとかそういう話ではなく、日本においても投資システムを見直しさらに良いものに変えていっていたんですね。サムライさんがさらにレベルアップして2015年は日本の投資も活発になっていきそうですね。
矢澤さん、様々なサムライさん内部のお話を詳細に公開していただき、また起業家へのアドバイスも具体的にたくさん頂きありがとうございました!

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参考URL:サムライインキュベート

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